株式会社新亀製作所 常務取締役 藤本 健文さん
取材・文:Office Vinculo(中西義富) 撮影:SEIKI MASAI(hollywood photos)
電動工具を使う職人さんにとっては、お馴染みのブランド「SUNFLAG(サンフラッグ)」。
そのブランドを生み出した株式会社新亀製作所は、もともと蓄音機のハンドルを作っていました。
そこからドライバーなどの「ハンドツール」を作り出し、現在は電動工具のビットでの国内有数のメーカーとなっています。
そんな新亀製作所の歴史を継ぐ、常務取締役の藤本健文さんにお話をお聞きしました。
藤本さんは創業者である祖父の孫にあたる。
新亀製作所の歴史は1952年に始まりました。
私の曾祖父が徳島から大阪へ出てきて、蓄音機の木製ハンドルを製造していたのですが、その木製ハンドルからヒントを得て、当時では珍しかったマイナスドライバーの製造・販売を始めたそうです。
「新亀」という名称は、祖父の名前(亀信)と、曾祖父の名前(新一)から取って付けられたと、現在の社長である父から教えてもらいました。
ハンドツール製品の展開は多岐にわたる。
現在の新亀製作所は総合ドライバーメーカーとして事業展開しています。取り扱い製品を大きく分けると、一つは「ハンドツール」です。
一般的な木柄ドライバーからメガネやカメラなどの整備に使用する精密ドライバー、1本で何役もこなすマルチドライバーなど、さまざまな種類のドライバーを製造・販売しています。
中には、某有名ファーストフード店の子ども向け玩具に適応する特殊ドライバーや、
特許こそ抑えていませんでしたが回転させるだけで締めつけられるラチェットドライバーなどもあり、ドライバーの製造・販売の歴史・経験・ノウハウは他社にも負けないものがあると思っています。
そして、取り扱い製品でもう一つの大きな柱が、電動工具に使用する「ビット(先端工具)」です。
1990年代頃から電動工具の普及が急速に高まり、当社も早い段階から先端工具の分野には取り組んできました。その結果、日本でも有数のメーカーとして認知していただき、多くの職人の皆さんには当社ブランド名である『SUNFLAG』の製品を使っていただいています。
代表格になりつつあるトーションビットシリーズ。
しかし、先端工具やハンドツールは比較的、真似のされやすい製品なので、昨今ではアジア諸国から安価な類似品が流入しています。ですが、それらの製品と価格競争をするのは、私たちの本意ではありません。
私たちは、常に工夫とアイデアを加えて、製品を付加価値のあるものとし、『こだわったモノづくりをする会社』を目指してきました。そんな思いから生まれたのが、累計で4000万本以上販売され、多くの人々に利用していただいている「トーションビット」シリーズです。
日々ご利用いただいている職人の皆さんはご存知でしょうが、「トーションビット」とはビットの中央部を細くして衝撃を吸収・緩和するビットのことです。各電動工具メーカーが発売する電動ドライバーやインパクトドライバーのスピード・パワーが上がるにつれて、トルクが強くなり、ビットの先端への負荷が大きくなってきました。
真ん中を細くすることで衝撃を軽減している。
その結果、ビットが「折れる・ダレる・カムアウトする」という現象も起きやすくなるので、過剰にかかるビット先端の負担を軽減するために真ん中の細くなったトーション部分で衝撃を吸収・緩和する「トーションビット」が生まれました。
トーションの発想は、もともとドイツメーカーがスタートですが、そこに新亀製作所(SUNFLAG)のアイデアを加えて、中央部がくぼんだテーパータイプの独自の形状を完成させました。
そして、発売されたのが当社初のトーションビット「テーパースリムトーションビット(TTB)」です。
発売後の反応は、ありがたいことにスゴい反響でした!!
うれしい誤算が対応力の土台をつくった。
ただ、あまりにも予想以上に売れたので生産がまったく追いつきませんでした。当時の私は、営業スタッフとしてお客様回りをしていたのですが、入荷を希望する皆さんをお待たせして「スイマセン」とひたすら謝った想い出があります(笑)。
だからと言って、適当な製品を出荷するワケにはいきませんので、モノづくりには常にこだわり、設備を充実させると共に、パートナー会社にも協力してもらい、生産体制を整えていきました。その甲斐もあって出荷にも対応できるようになりました。
新化し続けるトーションビットシリーズ。
その後も当社のトーションビットは年々進化し、現在はいくつかのタイプに分かれています。
「テーパースリムエックスビット(TTX)」は先端がやや肉厚になったタイプで、テクスビスやドリルネジを打ち込むのに適していて、鉄板や金属製品を扱う重作業の職人さんに人気です。
逆に先端部がスリム形状になっている「スーパースリムトーションビット両頭タイプ(STM)」はネジ頭が見やすいのが特徴。ネジが対象物にどれくらい入っているのかを目視しやすく、作業効率を重視しています。平坦な場所に数多く打つ人や、木製品を扱う職人さんには、こちらがオススメです。
少しカタチの違うものでは「スーパースリムトーションビット段付タイプ(BXB)」があります。
このタイプは片方のみをプラスドライバーとして、六角軸の部分を細く丸く加工。これにより、ネジ頭が見やすいだけでなく、ビットが回転した際に六角軸が他の部分に接触しないように工夫されています。
奥まった場所や狭い場所のネジを締めるのに最適で、カーテンレールや階段の手すりなどの取付を行う職人さんに重宝されていますね。
トーションビットは、当社でもナンバーワンのヒット商品なので、思い入れは強いですね。少し手前みそですが、当社の製品の登場したことで、日本のトーションビット市場を刺激することになり、さまざまな競争やイノベーションが始まったとも感じています。
これからも、「こだわりを持ったモノづくり」の精神で、この市場を盛り上げていきたいですね。
また、当社の強みは「利用者のかゆいところに手が届くモノづくり」でもあります。先に紹介した「ラチェットドライバー」やビットを延長する「ロングジョイント」、のこぎりを付属した「ボードのこ」など、その分野の先駆者的な製品もたくさん生み出してきました。
これからもハンドツールや先端工具のジャンルにおいて、新しい発想の製品を作っていきたいと思います。ひとつでも多く、当社の「こだわりをカタチに」していきたいですね。
「モノづくりの会社として、こだわりをカタチにしたい」と話す藤本健文さんは、 一方で、自社製品を愛用する女性アニメキャラクターを作るなど、
挑戦的なアイデアをカタチにする、魅力たっぷりの方でした。
ブランドをつくるひと
SUNFLAG(サンフラッグ)
SUNFLAG(サンフラッグ)
SUNFLAG(サンフラッグ)