株式会社新亀製作所 製造部製造4課 課長 藤本 和亨さん
取材・文:Office Vinculo(中西義富) 撮影:SEIKI MASAI(hollywood photos)
製品づくりに人一倍のこだわりを見せてくれたのが、製造部の藤本和亨さん。
2004年に発売された人気製品『トーションビットシリーズ』と“同期入社”の藤本さんは、
この製品づくりを通して、社会人として成長してきたそうです。
そんな彼の持つ、思いとこだわりをじっくりと聞かせてもらいました。
製造部に所属している私の仕事は、ドライバーの軸調整や先端工具(ビット)などの歪みの矯正を、プレス機械を使って行うことです。当社で扱っているドライバーやビットなどは、まず金属で形状を作ります。
トーションビットが発売された年に入社した藤本さん。
ここで出来た状態はいわゆる“生鉄”なので、そのままでは少し力を加えただけで、ぐにゃと曲がってしまいます。それをある程度の硬度にするためには、高温の炉で金属を焼く熱処理加工が必要です。
しかし、この熱処理加工をすると必ず金属には歪みが生じるので、それを矯正しなければ製品にはなりません。矯正はプレス機械で行うのですが、この数値データの設定がなかなかの曲者なんです(笑)。
ビットの数値データだけでも膨大な数なのだという。
ドライバーやビットなど製品によって違いますし、長さ、形状、トーションの有無などでも微妙に数値は変わってくるので、それぞれで適正な数値を見つけ出さなければなりません。
当社は製品の種類も多いので、その数値データだけでも何通りかな、というくらいありますね。
当社の人気商品である「テーパースリムエックス(TTX)」や「スーパースリムトーションビット両頭タイプ(STM)」などのトーションビットシリーズも同じ流れで製造されています。生産工程は大きく分けて9~10工程くらいです。
形状を作る、先端を十字に割る、熱処理加工する、歪みを矯正する、表面処理するなどがありますが、それぞれの工程を通過するたびに、さまざまな視点で製品チェックをしています。検査項目も細かく分けると、どれくらいあるのかな、という感じですね。
さらに、ハイトルクの電動工具のパワーやスピードに対応しなければならないトーションビットシリーズには、厳しい最終検査を設けています。通常の使用方法ではあり得ないくらいの負荷をかけてネジを打ち込み、「ネジ頭が勝つか?ビットが勝つか?」というレベルの検査です。
それでネジ頭を吹っ飛ばすくらいの強度を持っていないと、トーションビットシリーズは出荷しません。こうしたことは検査データだけではわからないこともあるので、手間であっても実施するようにしています。
わずかな「歪み」も見逃さない。
製造担当の私がこだわっているのは、いかに「歪みのないトーションビットを作るのか」ということです。スピードとパワーを発揮し、しっかりとネジを捉える形状は、開発担当者が創意工夫をして生み出してくれました。その形をどれだけ正確に再現して、多くの製品を作るのかに、私はこだわっています。
そして、「使う人がどれだけ気持ち良く使えるツールであるのか」という点にも、こだわりがあります。例えばトーションビットも、少しくらい歪みのある製品でも、おそらくネジは入っていくでしょう。
職人さんの手に負担がかからないものを。
しかし、歪みのある製品を使うと、少なからず手に振動が伝わってきます。1本2本のネジを打つだけの人ならまだしも、職人の皆さんは1日に100本200本もネジを打つ人たちです。
そうした人たちにとっては、少しでも振動がなく、スーッとネジが吸い込まれるように入っていくことが、私は大事だと思っています。
トーションビットシリーズは個人的にも思い入れの強い商品ですね。私が入社した2004年に発売が開始されて、この商品ともに私もいろいろな経験をさせてもらいました。
トーションビットが学びを与えてくれた。
製造担当として生産スピードや生産数に悩まされたり、休みを返上して工場を稼働させたりと、忙しかったイメージが強いですけどね(笑)。
しかし、この製品を作ることを通して学んだことが今に生きていますし、それ以降の他の製品への対応力も上がったと思います。
だから、私にとってトーションビットシリーズは「仕事の師匠」のような存在です。
職人さんからの褒め言葉が何よりも励みになる。
それと、トーションビットでは忘れられない思い出もあります。製品の使用シーンの撮影がしたくて、初めて会った職人さんにトーションビットを使ってもらいました。職人さんに私が製品を手渡した時に、「おっ、これ高いやつや」と言われたんです。
最初は「そんな風に思われているのか」と感じましたが、よくよく考えれば嬉しいことですよね。もし「安物やん」と言われたらハッキリ言ってダメなものですし、「高いやつ」ということは“高くても良い物”というイメージを持ってもらえているのですから。
実際に、その職人さんも使ってみて「やっぱり、ええわー」と喜んでくれましたので、そのイメージに負けないくらい良い物を作ろうという責任感も生まれました。
トーションビットシリーズは、現状でもシンプルで良い物に仕上がっていると思います。しかし、この限られた形の制約の中で、さらに新亀製作所(サンフラッグ)らしい製品を作っていきたいですね。
笑顔がとてもチャーミングな藤本さん。
「シンプルの中に、こだわりがあり、でもやり過ぎていない」。そこを追求していくのが、当社の真骨頂かなと思っています。
個人的には、「すでに使っている人には今後も継続して使ってもらえ、初めて使う人がもう他は使えない」というくらいの製品に成長させたいです。
あの時の職人さんのように、「やっぱり、これがいいね」と言ってもらいたいですからね(笑)。
お話を聞かせてもらった印象は「歪みのない、真っ直ぐな人」。まさに少しのズレも許されない工具を作るのに、ピッタリの方という感じ。
作業シーンの撮影中、真剣な表情の合間に見せてくれた笑顔も◎でした!
ブランドをつくるひと
SUNFLAG(サンフラッグ)
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