平安伸銅工業㈱ 開発部 副部長 猪野 聡さん
取材・文:Office Vinculo(中西義富) 撮影:ツジノワタル
女性向けのDIYパーツとはいえ、開発技術者にも男性スタッフはいます。
開発部副部長の猪野さんはラブリコ立ち上げ当初から関わった中心人物の一人。
「初心者でも手軽に簡単に使える」というコンセプトから導き出した数々の「思いやりポイント」とは?
技術開発者ならではの視点からラブリコを語る。
「見たら構造が理解できる」「DIY初心者や女性も手軽に使える」「簡単に設置できる」。
これがラブリコの開発コンセプトです。
当社には突っ張り棒、突っ張り棚、耐震ポールなどの製品があります。これらはサイズや仕様が違うだけで、基本構造は同じです。ネジを回し、壁や天井に突っ張る。そして、ラブリコのアジャスターも理屈は同じです。
むしろ、最近の突っ張り棒はコストを抑えるためにネジ部分にプラスチックを使用しているのに対して、ラブリコは突っ張り構造の初期段階に使われていた最もシンプルな構造を応用しているといえます。
開発部には頼りになるメンバーもたくさん。
2015年春にラブリコの構想が生まれ、2015年冬から本格的な製作がスタート。
私はデザイン作りから参加し、商品企画部の石橋と何度も打ち合わせをして形状を具体的に固めていきました。お互いにアイデアを出して、石橋が3DCADでビジュアル化し、私が機構や構造に関してサポートするカタチです。
開発で苦労したのは、最初のデザイン決めです。
長年、この分野に関わってきた開発者としては構造や使い方がすぐに理解できるのですが、果たして「DIY初心者や女性たちにわかってもらえるだろうか?」ということには一番頭を悩ませました。
男性である自分と、メインターゲットである女性との感覚の違いもありましたので、そこを埋めるために社内の女性たちと話をして、イメージのすり合わせもしました。デザインや使用方法では、いくつかの候補を出して、それぞれを検証してもらい、アンケートに答えてもらうなど、なかなか大変でしたね。デザインでは自分が選ぶものと、女性たちが選ぶものが全然違うこともあって。
もちろん女性たちの意見を尊重しました(笑)
書いた製品図面を見ながら、実物でもしっかり確認。
デザインが決まってからは、進行が早かったです。
2016年1月、私が最初の製品図面を書きました。その1ヶ月後の2月には最終の製品図面が完成。3月中旬には金型を作って、プロトタイプ製品ができています。
ただ、そのプロトタイプには図面通りにできていない箇所や変更したほうが良い箇所はあるので、それらの部分を検証し、修正・変更。そうして形状が完成して、今度は製品の質感を検証しました。
プラスチック素材そのままのツルツルした質感ではなく、手触りの良いザラつきを持たせたかったので。そうしたブラッシュアップを重ねて、2016年7月に商品化され、販売がスタートすることになります。
実際に使用した時、見た目をスッキリさせるのがポイントだと思っていました。
アジャスターは木材をかぶせた時に、出っ張りができないようにして、壁にピタリと接地するようにしたかったんです。
ここはデザイン形状でも要の部分です。
アジャスター内部のリブが木材を外さない。
それと使用時のことを考えた「思いやりポイント」も忍ばせています。その一つがアジャスター内側の突起状の三角リブです。
もし、これを入れていないと木材をはめ込んで移動した場合に、アジャスターが外れてしまうことがあります。しかし、三角リブがあれば木材が軽く食い込むので、アジャスターが抜けることはなくなります。2×4材といっても市販されている物には多少のばらつきがありますので、それらを吸収する意味でも必要だなと。移動するたびに抜けていたのでは、使いにくいですから。
このポイントについては石橋とミーティングを重ねる中で、ハッとひらめきました。
ネジの下に入れたバネが日々の負荷から守る。
もう一つの「思いやりポイント」は、ネジの下に入れたバネですね。
ラブリコで作った棚を日常的に使用していると、小さいながらにも少しずつ負荷がかかってきます。そうした日常の負荷に加えて、強くぶつかったり、大きな振動を加えたりすると、突っ張り部分が緩んでしまう可能性がないともいえません。
なので、私たちは発売前にわざと強い負荷をかける実験を何度も行っています。その結果、構造の中に緩めのバネを仕込ませることで、強すぎず弱すぎない丁度よい緩み止めを入れるようにしたんです。
高品質の「EVA」という素材が色移りを防ぐ。
最後の「思いやりポイント」は、アジャスターが壁や天井に接地する部分の素材です。
ここは当社の突っ張り棚でも使用している「EVA」という素材を使っています。この部分にはコストの安い塩ビ素材を使用することが一般的なのですが、ラブリコではあえて高品質のEVAを使っています。
その理由は塩ビの場合だと、長期間使用していると天井や壁に素材が張り付き、色移りする可能性があるからです。そうなっては賃貸物件の方だけでなく、持ち家の方にとってもショックだと思いますので、安心して利用できるように配慮しています。
使う人たちにケガをさせない。落ちたり、壊れたりしない。これは商品を作る上で、当たり前のことです。
プラスチック部品に余分な突起が残っていたりしないか、細かく注意点を出しています。できあがったものは、岐阜県にある当社の物流倉庫で一つひとつ検品。プラスチック製品は生産時期で寸法に違いが出たり、予期せぬ模様が入ることもあるので、それらを隈なくチェックしています。
無くさないように説明書にテープで付けられたネジ袋。
モノづくりをしていると、思いもしないことが起こるし、思っていることは必ず起こるんです。だから、最後は人の目でチェックしてしっかり対応しなければなりません。
よくあるのが、箱の中に付属部品が入っていないこと。これを無くすために、梱包する順番はマニュアル化して、付属部品のネジはあらかじめ取扱説明書に貼り付けておくようにしています。
そうすると、ネジの入れ忘れは無くなりました。お客様には気持ちよく商品を使っていただきたいので、日々そうした工夫はするようにしています。
一人のユーザーとしても、ラブリコは誰にでも使いやすく設置しやすい製品になったと思います。
これからも、そのような製品を作り続けていきたいですね。
オフィスに隣接して作業スペースがあり、そこで耐荷重を測ったり新しいラブリコのアイテムを試作したりしているようで、あちこちで実験装置が。
自分たちの製品はまず自分たちで試す。だからこそ生まれる「思いやりポイント」なんですね。
ブランドをつくるひと
LABRICO(ラブリコ)
LABRICO(ラブリコ)
LABRICO(ラブリコ)