平安伸銅工業㈱ 商品企画部 石橋 理保子さん
取材・文:Office Vinculo(中西義富) 撮影:ツジノワタル
モノをカタチにするには欠かせない要素である「デザイン」。
ラブリコのデザインに対する考え方や本体カラーの決め方、その先にある使用シーン…。
入社1年目にしてラブリコの様々なブランディングに関わった商品企画部の石橋さんにお話しを伺いました。
2015年11月に、私は入社しました。
すでにプロジェクトは、社内で動き始めていたと思います。でも、その頃のラブリコは形状やデザインはもちろん、名前やコンセプトもない状態。どんな商品なのか、というデザインイメージも無かったので、みんなが話をするための共通の言語がない感じでした。
入社1年目からラブリコに関わった石橋さん。
そこに、ひょこっと私が入社して、社長の考えをスケッチやイラストで絵にしていきました。元々、前職は雑貨や家具のインテリアショップのデザイナーだったので、絵を描くのは得意でしたから。同時にターゲットの選定や商品の売り方や見せ方などのコンセプト作りにも参加していました。
なので、『ラブリコブランド』のスタートから関わっていることになりますね。
普段は3DCADを使用してデザインしている。
「女性や家族が楽しめる安全なDIYパーツを作ろう!」。これがラブリコの商品コンセプトです。
DIY市場は年々大きくなっています。ただ、ツールや商品には、まだまだプロ仕様や男性向けが多い印象です。女性や家族が気軽に使えるものが少ないと感じます。
でも本来、暮らしの中心にいるのは女性です。家の内装やインテリアに興味を持つのも女性の方が多いので、暮らしを作る「DIY」でも雑貨感覚で安全に使えるものがほしいと。そんな思いが込められて生まれたのが「ラブリコ」なんです。
ご自身でもDIYしているからこそ、すぐに共感できた。
初めて竹内社長の「女性向けのDIYパーツを作ろう!」という話を聞いた時、すぐに共感しました。
自分もほしかったですし、「なんでないんだろう!」とも思いました。DIYはいわばオーダーメイドで、それぞれの暮らしに合わせてカスタマイズできるもの。当社の突っ張り棒などの商品には、伸ばしたり縮めたりすることで、みんなの暮らしに合わせるという似た要素があります。
だから、その似ている利点を活かし、それをより女性向けにアレンジすれば、女性がほしがるDIYパーツになるのではないかと思ったんです。
社長や常務をはじめ当社は、今、みんながほしいものを作りたいという人たちの集まりです。私も同じ思いだったので、今の暮らしに合わせた商品づくりをしようと思いました。
また、最近の住宅事情では賃貸物件に住んでいる方も多いですし、空き家物件が増えているという問題もあります。そうした時代背景を考えて、「今、使いやすいものは何なのか?」ということにフォーカスして、続いていくブランドにしたいと思っていました。
デザインを考える時は、まず利用シーンをイメージします。その空間で使われているシーンを思い描き、形状やデザインを決めます。今回、デザインで意識したのは「存在感を消す」ことです。
制作に入る前に形状のスケッチを何度も繰り返した。
生活空間において、ラブリコは“主役ではなく脇役”。あくまでラブリコで作った棚に並べられた物が、主役という考え方です。
今、発売されている4つの商品は、存在感をなくすために四角形をベースにしたデザインにしています。理由は木材や壁となるべく一体化させるため。
例えば、丸みを帯びたデザインにすると、ラブリコ本体の可愛らしさは増しますが、個性が強くなって、ラブリコ自体が目立ちすぎてしまいます。
女性の指でもジャッキを回せるか、徹底的に検証した。
形状で悩んだのは、アジャスターのネジを調節するジャッキの部分です。
ここはネジを回す大事な機能なので、回しやすさと使いやすさを残しつつ、いかに男性的な工具っぽさを見せないようにするのか、かなり悩みました。女性の指でも回せるか、力が入れやすいサイズ、凹凸の数、長さ、高さを、模型を作って何度も検証しました。
スケッチでは数十個ぐらい描きました。ジャッキを見せるか、隠してしまうのかも悩んだところです。それについては、使いやすさと設置後の調節ができることを考え、見せる方のデザインを選択しました。そして、今の女性でも力を入れず、軽く回せるジャッキにたどり着きました。
雑貨感覚の商品なので、カラーバリエーションは絶対に作ろうと思っていました。
やっぱり選ぶ楽しさがほしいですからね。
バリエーションはベースカラーが3種類です。
白色は、これまでの当社の商品(突っ張り棒)の白に比べると、黄色みが強い白で「オフホワイト(写真:左)」です。昔は家庭の電気も蛍光灯が主流でしたが、現在は電球色やLEDなど、いろいろな電気のタイプがあり、オフホワイトでも綺麗に見えるということがわかっています。加えて、最近の人気の壁紙のカラーがオフホワイトに近いので、現代の暮らしにあわせやすいようにしています。濃い茶色の「ブロンズ(写真:右)」は、木材塗料の人気色によくマッチする色です。締まった色で、アンティークや古い物を置くにもよく合うと思います。最後のカラーの「ヴィンテージグリーン(写真:中央)」は社内で一番意見の分かれた色で、特に男性陣の多くは「えっ!この色を出すの?」という感じでした。
カラーの決定には相当悩んだという。
ヴィンテージグリーンはアメリカの有名雑貨ブランドで人気の色で、その雑貨は雑誌やWebなどでもよく取り上げられています。
実際にDIYをする女性のブログなどでも、それらの雑貨はよく登場するので「絶対に好きな人は多い!」と思い、社内でも女性陣から人気でした。
色味は少しくすんだグリーンで木材との相性がよく、主張しすぎず、可愛らしくなりすぎず、ちょうどよい感じに仕上がっています。この色味を好む人は、他の雑貨や持ち物でも同系色の物を揃えていることが多いので、余計に上手く馴染むと思いますね。
ラブリコのポジションはペルソナから決めた。
ブランディングでは、まず市場でラブリコのポジションが「どこなのか?」を考えました。他社が業務用やプロ向け商品を扱う中、ラブリコは家庭用で初心者が扱いやすい商品。でも、シンプルで簡単なだけでなく安全性の高い商品であること。それが、ラブリコの目指す市場でのポジションでした。
利用者のイメージは30代以上の女性がメイン。生活に落ち着きが生まれ、日々の暮らしに目が向いている人たちです。毎日にちょっとした豊かさや潤いを求める人たちにも喜んでもらえるようにしたいと。それでいて、商品の機能性を理解してくれて、「良いものは良い」と言ってくれる人たちに響くようにブランディングは心がけています。
ラブリコのロゴスケッチ。親しみやすいデザイン。
ロゴや商品パッケージでも、女性向けを強く意識しました。ラブリコはラボラトリー(英語で実験室)とブリコラージュ(フランス語でDIY)をかけ合わせたものです。ブランド名には「DIYで家を実験室にするくらい楽しもう」という思いが込められています。可愛らしい響きで、女性に愛されるブランドにしたいと願っています。
名称の発案は常務で、社内の投票で1位を獲得しました。ロゴデザインは私がラフイメージを作って、グラフィックデザイナーがビジュアル化してくれたのですが、めちゃくちゃ愛着があります。もちろんラブリコというブランドはチームや会社で力を合わせて作ったものですが、個人的な思い入れも強くて可愛らしい存在です。ロゴをみて「この子は1年前に生まれたんだなー」と思い出すこともありますね(笑)。
ラブリコが生まれて、展示会やイベントに参加することが増えました。来場者はDIYに興味のある人が多いのですが、皆さん面白くて優しい人ばかり。「DIY業界って温かいなー」と、いつも思います。
そうした場は商品の使用方法や、次にほしい物のイメージを直接聞ける場所でもあるので、とてもありがたいです。業界の会社同士のつながりも生まれて、木材や壁紙の会社さんと仲良くさせて頂くようになりました。
イベントでは子どもたちとの触れ合いを楽しんだ。
また、そうした会社さんは実際のユーザーであるDIYerさんとのつながりも深いので、いろいろな意見を聞かせてもらいます。DIYerさんの中には主婦でプロ並みの腕前の人もいたりしてびっくりします。
ラブリコは初心者向けの商品ですが、プロレベルの人たちにも喜んでもらえていますし、今後も満足してもらえる物を作りたいですね。
とはいえ、まずは「DIYやってみたいけど、難しそうだなー」と思っている人たちが、実際に体験しやすいように手助けとなるパーツでありたいなと思います。そんな商品をたくさん作って、皆さんの暮らしにいろいろな提案ができると良いですね。
ラブリコの形状やカラーバリエーションは、女性ならではのものを感じます。それはターゲットである女性と同じ目線から考えることができるているからでしょうか。
今後のラブリコの展開にも注目です。
ブランドをつくるひと
LABRICO(ラブリコ)
LABRICO(ラブリコ)
LABRICO(ラブリコ)